1.開発の経緯
先行研究として、人の寝返り動作は個人差による影響が大きく、かつ複雑なことから、客観的な寝返り難易度を測定できないかという考えで、水平方向への引張荷重に対する腰部加圧子の傾きの変化を寝返りしやすさの指標として検討しました(寝返りしやすさ測定1 参照)。
ところが、実際の寝返りには連続した動作が行われることから、本報では、安福氏、梶井氏らの研究1)を参考にして、加圧子を水平方向に引き戻し運動をさせる際に生じる加圧子の傾きの変位に着目し、任意の距離(変位)および速度で加圧子に傾きを伴う往復運動をさせました。その際に加圧子の傾きに要する張力を連続記録することによってウレタン素材の硬度と加圧子の転がり動作に要する変位張力の関係を検討しました。その結果、任意の変位L[㎜]に対する張力F[N]の関係は、硬度が大きくなるにつれて、いわゆる硬い試料ほど変位に要する張力が大きくなるという結果を得ました2)。
単体のウレタン素材で得られた知見が、市販されている敷ふとんやマットレスにそのまま当てはまるのか、また実験に使用した試験器の検討を行うことにしました。
2.新しい測定器の開発について
腰部加圧子を用いた寝返り難易度測定器(試作)の概要を図に示します(図1)。腰部加圧子の直径は硬さ測定用加圧子(JIS K 6400-2)と同じ200[㎜]で下部の試料との接触面は凸200Rの曲面状となっており、重量は12.1[㎏]です。この加圧子は体重60[㎏]の人体腰部の沈み込みを想定しています。加圧子はリニアスライダーに固定されたロードセルにワイヤーで直結されており、リニアスライダーが任意の距離を往復運動することによって加圧子も往復運動します。その際、リニアスライダーの往復移動距離(変位)に対応してロードセルへの張力が連続記録されます。リニアスライダーの往復移動距離(変位)は加圧子の形状を考慮し、片道60[㎜]としました。なお、リニアスライダーの片道移動に要する時間は便宜的に5[sec]として10往復測定を行いました。試料とした敷ふとんは市販品を無作為に23枚選択しました。
図1. 寝返り難易度測定機
3.結果
先行研究では、軟らかなウレタンフォームほど傾きに要する張力は小さくなったことから、沈み込みの実測値が大きい試料ほど軟らかいと評価し、沈み込み量と張力の関係を検討しました。その結果、両者間には相関は認められませんでした。しかし、試料毎に変位張力曲線を検討するとそれぞれ特徴がみられました(図1、図2)。先行研究で用いた単一素材のウレタンフォームと比較すると、製品としての敷きふとん(23枚)はそれぞれ側地の素材、中材、つめ物、充填率および重量が異なり、また表面がフラットな物とキルティングによる大きなうねりがある物など形状も様々であることから、本研究で用いた寝返り難易度測定器による変位張力曲線は製品としての個々の敷きふとんの特性(特徴)を示していると考えます(図3)。 なお、この研究は日本睡眠学会第27回学術大会(大阪)で報告しています。
図2. 加重変異曲線の例 図3. 試料の硬度と加重変異曲線の傾き (ウレタン資料 KPA 215【N】) (KPA 215【N】と OGA【N】の比較)
図4. 変位張力曲線の比較 (試料 1:ウール 100%、試料 2:テンセル 100%)
参考文献
- Masaru ABUKU, Morie MIYAZAWA, Hironobu KAJII, Niuniu Zhang:Measurements of Stress-Strain Relation to Evaluate Rolling Over in Bed, ICHES2011, pp.66-69, 2011.
- 荒川一成, 犬山義昭, 川田剛宏, 中島繁雄, 石井一友, 富澤順:マットレスの寝返り難易度測定器の開発(その2), 足利工業大学総合研究センター年報, Vol.18, p.80-84, 2017.