寝返りしやすさ測定 荒川一成(理事)

1.寝返りについて

人は一晩の睡眠中に20回から40回程度の寝返りをうっています。              睡眠研究においては体動と称され、筋電図法(EMM)により細体動(0.5秒未満の持続あるいは単一筋単位の収縮)と粗体動(0.5秒以上の持続や複数の筋の収縮をともなう)に分けて分析されています1)。睡眠中の寝返り(体動)の出現原因として、岡田氏らは寝床内温度を変化させ、寝返りと平均皮膚温および平均熱流量との関連を解析し、敷寝具表面温度の上昇に伴う皮膚温上昇を防御するためとしています2)

ここで扱う「寝返り」とは、健常人が寝具の中で体幹の向きに大きな変化を与えることに限定します。また、寝返りをうつという動作は、例えば仰臥位から側臥位へ というように概ね寝姿勢が変化したことを指し、角度をどのくらい変化させたかという厳密な定義はありません。

寝返りのしやすさについては 敷寝具の沈み込みや、シーツおよび掛け寝具とパジャマ間の摩擦等も関係しています。さらに寝返りのしやすさには敷き寝具の硬さも影響します。硬いマットレスと比較して、軟らかいマットレスほど沈み込みが増します3),4)(図1)。したがって、体幹の沈み込み具合が寝返りのしやすさにも影響すると考えられます。

このように寝返りは寝床の中で行われるため多くの要素が関係しますが、単純にマットレスの硬さによる違いを検討することを試みました。そこで、その傾向を確認するための寝返り難易度測定器を試作し、引張荷重に対する加圧子の傾きを評価することで寝返り難易度を検討しました。

%e4%bb%b0%e8%87%a5%e4%bd%8d-%e5%81%b4%e8%87%a5%e4%bd%8d                             図1. マットレスの硬さと沈み込み

 

2. 測定器の試作

腰部加圧子を用いた寝返り難易度測定器(試作)の概要を図に示します(図2)。腰部加圧子の直径は硬さ測定用加圧子(JIS K 6400-2)と同じ200㎜で 下部の試料との接触面は凸200Rの曲面状となっており、重量は12.1㎏です。この加圧子は体重60㎏の人体腰部の沈み込みを想定しています5),6)。試料となるウレタンフォームに載せた加圧子を水平方向に引っ張ることによって傾きを与え、その引張荷重に対する傾きを測定しました。引張荷重は、100g間隔で0gから1500gとし、硬度の異なるウレタンフォーム10種類について測定を行いました。測定の対象となった試料は10種類で いずれもアキレス製の軟質ウレタンフォームです(表1)。                           硬度は75(N)から280(N)で、この数値が小さいほど軟らかく、反対に大きい数値ほど硬いことを表しています。

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3. 結果と考察

試料となる10種類のウレタンフォームに載せた加圧子の引張荷重(0g~1500g)に対する傾きの散布図を示します(図3)。縦軸は加圧子の傾き、横軸は引張荷重となる錘の重量です。  各散布図に近似曲線を当てはめると、直線的な線形近似曲線が当てはまるものと、軟質ウレタンフォーム試験方法(JIS K 6400)の荷重-変異曲線に見られるような累乗近似曲線が当てはまるものがありました。このような違いは、それぞれのウレタンフォームの物性によるものと考えます。

結果として、硬度の数値が小さいウレタンフォーム、いわゆる軟らかいウレタンフォームほど錘の重量が増すにつれて加圧子の傾きが増加しました。また、錘の重量に対する各ウレタンフォームに載せた加圧子の傾きは、錘の重量が増すほど顕著に大きくなりました(図4)これらの結果は、軟らかなウレタンフォームほど傾き易い、すなわち寝返りしやすいことを意味しています。また、硬いマットレスを好む人も多いと思われますが、硬すぎると肩など身体の凸部を押し返す力が強いために、逆に動作が困難になる場合があります。したがって、硬いマットレスほど加圧子が傾くときに加圧子底部の曲面を強く押し返すことが考えられます。

ただし、今回の実験に用いた試料は 全て中・高反発の軟質ウレタンフォームです。低反発ウレタンフォームは軟らかく 粘性が高いため、身体がフォームに沈み込みやすくなります。また、圧縮たわみ試験(JIS K 6400-2 B法)から求められる高反発ウレタンフォームのヒステリシスロス率は25~35%程度であるのに対し、低反発ウレタンフォームでは50~70%程度です7)。そのため、ヒステリシスロス率の差が多少なりにも寝返りしやすさに影響するかもしれません。

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図3. 各試料における錘の引っ張り加重に対する加圧子の傾き

 

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図4. 引張荷重となる錘の重量に対するウレタンフォームの硬度と加圧子の傾き

 

参 考 文 献

  1. 白川修一郎:f.体動, 睡眠学ハンドブック日本睡眠学会編集, 朝倉書店, p.460-463,1994.
  2. 岡田モリエ, 永井慈子, 江角宣子:低温および中温環境下における寝床面温度が寝床気候および心理・生理相互におよぼす影響, 家政学研究, Vol.30, p.103-110, 1984.
  3. 荒川一成, 中島繁雄, 萬代宰, 小林敏孝:寝姿勢を考慮した寝装品の開発Ⅲ(3次元デジタイザによる寝具の沈み込み測定), 足利工業大学総合研究センター年報, Vol.4, p.151-154, 2003.
  4. 荒川一成, 大井隆志, 中島繁雄, 犬山義昭:マットレスの沈み込みと体圧分布, 足利工業大学総合研究センター年報, Vol.10, p.121-125, 2009.
  5. 荒川一成, 大井隆志, 犬山義昭, 中島繁雄, 鈴木公輔, 渡部俊亮:マットレスの沈み込みと体圧分布(Ⅱ), 足利工業大学総合研究センター年報, Vol.11, p.135-139, 2010.
  6. 荒川一成, 犬山義昭,大井隆志,中島繁雄, 鈴木公輔, 渡部俊亮:マットレスの沈み込みと体圧(-胸部加圧子と腰部加圧子の開発-), 足利工業大学総合研究センター年報, Vol.12, p.111-114, 2011.
  7. 日本ウレタン工業協会:もっと知りたいポリウレタン, 軟質ポリウレタンフォーム,

軟質ポリウレタンフォーム|日本ウレタン工業協会 (urethane-jp.org)