今ここ というときに気合が入らない、あるいは反対にゆっくりと休みたいときに何か緊張してリラックスできない。 このように体の オン ― オフ がうまくいかないとき、世間では自律神経の失調ではないかと言われます。
この自律神経とは何でしょうか?
ところで、自律神経のお話をする前に、より一般的に「神経」そしてその集まりである「神経系」とは何かをざっくりと説明しましょう。 われわれは日常生活において、実に多くの家電機器や情報機器 そして自動車といった大変複雑な働きをする様々な機器を使っています。それらの機器はその機器の使用目的を遂行するために、多くの場合は主に電気的信号によってその働きが制限されています。
一例をあげると、エアコンです。 希望温度以下になると、その希望温度より高くなると冷房機能が働きます。また、希望温度以下になると、その冷房機能が停止します。 そうして、室内の温度が一定範囲の中に納まるように制御されているのです。この制御のために必要なのが室温を感知するセンサーです。そして、この温度センサーからの情報を受けて設定温度と比較して判断する中枢部、そして判断に基づいて冷房機能を開始あるいは停止する実行部から構成されています。そしてそれぞれに段階で電気的信号がやり取りされています。 つまるところ、複雑さに違いがあってもすべての機器あるいはシステムと呼ばれるものはこの基本的構造は共通です。
ヒトをはじめ動物や植物においても事情はおおむね同じです。 とりわけ、動物においてはこのセンサーを司る部分を「感覚神経(あるいは 求心性神経)」と呼んでいます。知覚などの感覚器官からの情報を脳(中枢部)へと伝えます。一方、中枢部で判断された情報に基づいて対応する行動を随意的に引き起こす神経を「運動神経(あるいは 遠心性神経)と呼んでいます。 この2つを総称して「体性神経(系)」と呼んでいます。この体系神経系とは異なって、生物の生存によってやはり重要な機能である、循環、消化、排泄などの機能を意識することなく常時制御する神経系を自律神経(系)と呼びます。
この自律神経系の役割は、生体が下界との関わりにおいて最適な身体状態を提供することです。この自律神経系は対立する2つの働きがあります。 生体を活性化するのが交感神経、そして反対にリラックスさせるのが副交感神系です。 たとえば、動物が捕食行動に入るときには緊張・興奮状態が必要です。その時に働くのが交感神経です。 逆に休息時に働くのがもう一つの副交感神経です。 身体維持の機能は常にこの2つの神経系の影響のもとにあると言えます。交感神経が優位になると、心拍数が増加、気管支が拡張、消化器の機能抑制、血圧上昇、末梢血管収縮そして瞳孔の拡張が起こる。これらは、外的事態に対して何らかの行動を発動するときに必要な状態です。 一方、副交感神経が優位な時は、リラックスして、次の行動に備える場合です。心拍数は減少して、気管支収縮、消化液の分泌、消化管蠕動、血圧低下、そして瞳孔の収縮が起こります。つまり、自律神経とは自動車で言えばアクセルとブレーキに対応していて(図1 参照)、両者が上手くかみ合って初めて適切な走行ができるように、生体にとってもこれら2つの自律神経系の働きがバランス良く働いていてこそ、適切な生活が可能になります。
図1 自動車の制御とヒトの自律神経の働き